はじめに
本稿は、2024年11月末に発症した私自身の腰椎椎間板ヘルニアについて、治療家としての医学的視点と患者としての実体験をもとに作成した闘病カルテです。
※この投稿は別ブログ【六丁の目接骨院の日報】で掲載した腰椎椎間板ヘルニア闘病記(全14回)に沿い解説しています。よろしければ、そちらもご参照ください。
1.腰椎椎間板ヘルニアという疾患の本質
私が患った腰椎椎間板ヘルニアは単純な「腰痛の病気」ではありません。
本質は腰にある神経の圧迫と炎症により、腰から足にかけての痛みや痺れ、筋力低下、排尿・排便障害などの症状が出る疾患です。
レントゲンやMRI画像所見も重要ですが、症状と神経学的所見、画像所見が一致して初めて意味を持ちます。
「MRIでヘルニアが出ている=原因」と短絡的に考えることは診断・治療の迷走を招くことに繋がります。
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椎間板(線維輪+髄核)が破綻
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髄核が突出・脱出
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神経に機械的圧迫+化学的炎症
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下肢症状が主体となる

2.発症の背景
「股関節で逃がすべき負荷を、腰椎で受け続けていた」
この構造的問題が限界点を越えた瞬間に破綻したのが、今回の闘病記の始まりでした。
発症要因
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年齢(当時52歳)や疲労度、柔軟性を考慮しない状況でのオーバートレーニング(空手稽古、ウエイトトレーニングなど)。
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高強度・高頻度の回旋動作
- 過度のジャンプ系補強運動
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疲労時のアブローラー(腹筋強化器具)による体幹過負荷
- 空手の大会を目指して「納得するまでやる」という気持ちが、身体の悲鳴、腰の赤信号を無視することに繋がった。

3.急性期:発症~約14日
症状
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骨盤に深く強い痛み、腰痛は軽度
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右下肢の強い神経痛
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立位不可、歩行時前屈姿勢
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夜間痛強く、仰臥位(あおむけ)不可
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右膝の反射(膝蓋腱反射)消失
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L4(第4腰神経)領域の知覚異常
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大腿四頭筋の筋力低下
※上記は第4腰神経根症状を表している。
4.鑑別:脊柱管狭窄症との違い
代表的な特徴
| 項目 | 腰椎椎間板ヘルニア | 脊柱管狭窄症 |
|---|---|---|
| 発症 | 急性・きっかけ明確 | 徐々に進行 |
| 痛み | 主に体を前に倒すと悪化傾向・足への症状は片側性が多い | 主に体を反ると悪化傾向・足への症状は両側性が多い |
| 痛みの出る姿勢 | 座っている時や寝る姿勢でも痛みや痺れを感じる | 立っている姿勢や歩行時に痛みを感じるが、座っている時や寝る姿勢では症状を感じにくい |
| 歩行 | 痛みで歩行困難なことはあるが間欠性跛行にはならない | 間欠性跛行【歩くと悪化、休む(前傾姿勢)と回復】 |
| 年齢 | 比較的若年 | 中高年 |
※上記は代表的な特徴であり、ヘルニアの突出部位により例外も数多くある
今回の特徴
L4/5椎間板 右椎間孔突出+正中後方突出の複合型
一般的な腰椎椎間板ヘルニアの多くは脊柱管内に突出し、その椎間レベルで分岐する下位神経根(L4/5ならL5神経根)を圧迫します。
一方、本症例のような椎間孔型(外側型)では、同じL4/5でも1つ上位のL4神経根が障害され、この部分が体を反ることにより症状を悪化させていました。
正中後方ヘルニアの目立つ症状はありませんでした。(複合型ヘルニアの突出の程度によってはL4とL5が同時に障害されることもありえた)
右椎間孔突出 → L4神経根障害(大腿四頭筋筋力低下・膝蓋腱反射消失・下腿の知覚異常)
正中後方突出 → 脊柱管・馬尾神経圧迫のリスク
症状が「脊柱管狭窄症に似た理由」
本症例では、前屈で症状が軽減、伸展で増悪という、脊柱管狭窄症様の症状を呈しました。
・前屈(前に曲げる) → 椎間孔は拡大して楽になる ・伸展(後ろに反る) → 椎間孔は狭小して痛みが増す
つまり右椎間孔型ヘルニアによるL4神経根圧迫が症状の主体だったため、狭窄症様の動態痛を感じていました。
椎間孔部のヘルニアは外側型とも呼ばれ、ヘルニア全体でも7~12%程度の割合で比較的珍しいタイプです。
正中後方ヘルニアのリスク
症状は出ていないがMRIではL4/5に正中後方ヘルニアも明確に存在していました。
このヘルニアが増大すれば、両下肢症状、排尿・排便障害といった、より深刻な馬尾症候群に進行するリスクがありました。
正中後方ヘルニアのリスクを抱えながら右椎間孔ヘルニアの症状緩和を行うことを今回は余儀なくされました。
5. 保存療法の本質と限界
保存療法の目的
急性期での保存療法は痛みを消すことが目的ではありません、神経の炎症を鎮め回復の時間をつくること、治る環境を整えることを目的とします。
炎症期間を最小限に抑え、痛みでの二次的被害を出さなければ炎症は消え、人体の貪食作用がヘルニアを小さくしてくれる期待が持てます。
実際、初期に強い痛みがある場合でも手術を必要とするケースは全体の一部(1割程度)にすぎません。
有効だった要素
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安静(=刺激を入れない工夫)
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姿勢管理
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物理療法(微弱電流、干渉波など)
- 必要最小限の内服薬
- 骨格筋整体術は上記処置に併用し、私の症例では有効に作用した(当院開発整体術 )
無効・悪化した要素
- 急性期でのストレッチ
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振動刺激(患部への直接刺激)
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ローラーベッド(患部への直接刺激)
保存療法には限界がある
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進行性筋力低下
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排尿排便障害
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強い神経痛が数週~数か月改善しない場合
このラインを越えた場合、手術を検討します。
6.回復期:1ヶ月~1年
第2の問題、ヘルニアが治っても、身体は元に戻りません。
動かせなかった腰や股関節を少しづつ働かせて、身体の機能を正常化させていきます。
回復期は「身体の再教育期間」です、武道の基本的動きを意識したリハビリも行いました。
懸念される症状
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代償歩行(本来とは異なる不自然な歩き方をすること)
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仙腸関節・股関節の二次障害
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大腿四頭筋の筋力低下
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体幹固定パターンの癖(不自然な姿勢)
7.再発を防ぐために重要なこと
「日常生活に支障がない程度の回復」がゴール(治癒)ではありません。
アスリートなら自分のフィールドに戻り競技を再開すること。
アーティストなら、自分のパフォーマンスを心身ともに回復させること。
仕事でも学校でも、ヘルニアになる以前の自分に戻ること。
そして以前の自分以上に、健康的な身体バランスを構築することが本当のゴールになります。
ゴールまでの過程にある再発リスクに注意が必要でした。
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痛みが減った=治癒ではありません。
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神経所見の回復には時間差があります。
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急性期は「刺激を減らす分析力」が重要です。
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回復期は「リハビリ内容や正しい負荷を選ぶ判断力」が重要です。

終わりに
腰椎椎間板ヘルニアは「動かなければ治る病気」でも「鍛えれば治る病気」でもありません。
正しい時期に、正しい判断を重ね、正しい行動をとることが大切な疾患です。
初期段階に正しい処置が出来れば改善される方も多くいるなか、1歩間違えれば大きな後遺症を負ってしまうケースもあります。
今回私が身をもっての経験できたのは、患者様の気持ちを理解するのにも非常に役立ちました。
腰椎椎間板ヘルニアの急性期は想像を絶する痛みを伴います。
ヘルニアのタイプ、進行度を見極めて一人でも多くの患者様の健康に役立てれば、この闘病記は大きな意味をもっていきます。
合掌
☞ 腰椎椎間板ヘルニア闘病記(全14回)はこちら
腰椎椎間板ヘルニア Q&A

Q1.腰椎椎間板ヘルニアとは、どんな病気ですか?
腰椎椎間板ヘルニアは腰痛を伴うこともあるが本態は「腰の病気」ではなく「神経の病気」です。
背骨のクッションである椎間板が壊れ、中の髄核が飛び出すことで神経を 圧迫+炎症 させ、主に「お尻から脚にかけての痛み・しびれ・力の入りにくさ」が出ます。
腰が痛くないのに脚が痛い、というのも珍しくありません。
排尿障害が出たり、日常生活が出来な程の痛みが続く場合は手術を検討します。
Q2.なぜ腰より脚が痛いのですか?
神経は腰から脚に向かって伸びています。
ヘルニアは 神経の根元(腰)でトラブルが起き、症状は末端(脚)に出る ためです。
Q3.放っておけば自然に治りますか?
軽症であれば自然軽快する例もあります。
ただし、痛みが強い、夜も眠れない、足に力が入らない、しびれが悪化している、尿が出にくい。
このような場合は、「自然に治るのを待つ」ことが 悪化を招くこともあります。
速やかに医療機関を受診しましょう。
Q4.安静にしていれば治りますか?
「動かない=正解」ではありません。
重要なのは、無理な刺激を避ける、痛みが増やす動作を減らす、正しい姿勢・動作を覚えることです。
完全な寝たきりは回復を遅らせることもあります。
Q5.マッサージやストレッチは有効ですか?
急性期には逆効果になることがあります。
特に、強いストレッチ、振動刺激、マッサージチェアなどは神経の炎症が悪化することが多いです。
Q6.痛み止め薬は飲み続けたほうがいいですか?
痛み止めは「治す薬」ではなく「生活を成立させる薬」 です。
痛みを我慢しすぎて動けなくなるより、必要最小限で痛み止めを服用して安眠や歩行の手助けをする方が回復を助けることもあります。
服用については医師又は薬剤師の指導を受けてください。
Q7.コンドリアーゼ(ヘルニコア)とは何ですか?
腰椎椎間板内酵素注入療法といい、椎間板の中に直接注射し、髄核の保水成分を低下させ神経圧迫を軽減させる治療です。
手術より体の負担が少なく、効果が出る人も多いがヘルニアのタイプにより適応しない場合もあります。
「保存療法と手術の中間」に位置します。
手術に踏み切る前に、一度専門の医師にコンドリアーゼの選択はできるか診ていただくのも良いでしょう。
当院ではヘルニアの症状に合わせて手術を検討する場合、ヘルニコア適用の信頼できる病院へ紹介をしております。
Q8.手術をしなければ治りませんか?
多くの人は手術なしで改善します。
ただし、足の力が落ちてきている、尿意がわからない等の排尿・排便に異常がある、改善しない強い神経痛があるなど、症状のレッドフラックが出た場合は手術を検討すべきサインです。
Q9.内視鏡手術は安全ですか?
内視鏡手術はリスクが少なくて回復も早いですが、適応が合っているかが重要です。
症状、痛みの規則性などで、適応かどうかは判断します。
術者の経験、施設の実績で結果を左右することがあります。
「内視鏡=必ず安全・成功」ではありません。
Q10.再発はしますか?
手術でも保存療法でも再発は考えられます。
ただし多くの場合、動作、姿勢、トレーニング内容、生活内容を見直すことで 再発リスクは大きく下げられます。
☞ 腰椎椎間板ヘルニア闘病記(全14回)はこちら
※本記録は腰椎椎間板ヘルニアを保存療法(手術を行わない方法)で回復した個人的体験であり、効果を保証するものではありません。
強い痛みの背景には緊急性の高い疾患が含まれる場合もあるため、症状のある方は必ず医師の診断を受け、適切な治療・リハビリを行ってください。
💪応援ありがとうございます
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